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東京高等裁判所 昭和61年(ラ)186号 決定

抗告人

利根産業株式会社

右代表者代表取締役

永沼公利

右代理人弁護士

斎藤正義

苦田文一

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状記載のとおりであり、要するに、抗告人の競売申立にかかる差押債権より優先する株式会社埼玉銀行の債権についても競売手続が別途に進行中であり、いずれか一方の手続での配当がなされればその優先債権が消滅する関係にあるから、右別途になされている競売手続の進行と合一的に運用すべきであり、そうすれば、本件において剰余の見込みは充分にある。そうでないと、いずれの裁判所においても剰余の見込みがないとして競売手続を取り消されることになり、かくては抗告人にとつての損害は計り知れないから、原決定は違法であり、取り消されるべきであるというにある。

二当裁判所の判断

本件記録によれば、次の事実が認められる。

抗告人は、昭和六〇年三月九日東京地方裁判所八王子支部に対し、別紙抗告状添付第二物件目録記載の土地建物(以下本件競売物件という。)につき、根抵当権(昭和五七年七月一日付設定契約による極度額金一億円、東京法務局府中出張所同月一二日受付第三三七五四号設定登記)の実行として競売申立をし、昭和六〇年三月一一日同裁判所の不動産競売開始決定がなされ、また、千葉地方裁判所に対し、別紙第一物件目録記載の土地建物につき、根抵当権(昭和五七年七月一日付設定契約による極度額一億五〇〇〇万円、千葉地方法務局八千代出張所同月一四日受付第九五六四号、同年八月二六日付設定契約による極度額同、千葉地方法務局同年一〇月一五日受付第四五七二四号設定登記)の実行として競売申立をし、昭和六〇年三月二七日同裁判所の不動産競売開始決定がなされた。ところで、株式会社埼玉銀行は、別紙執行抗告状添付第一物件目録(1)(2)記載の土地及び建物について債務者杉山技研株式会社に対する債権につき(一)昭和五五年一一月二九日付金銭消費貸借契約を原因とし、千葉地方法務局八千代出張所同年一二月一七日受付第一八四四八号をもつて債権額金五〇〇〇万円の抵当権設定登記を、(二)(イ)昭和五六年九月二一日付金銭消費貸借契約金二〇〇〇万円のうち金一七八四万円について前同出張所同月二五日受付第一二五八七号をもつて、債権額金一七八四万円の抵当権設定登記を、(ロ)右(イ)の抵当権につき錯誤により同年五月一四日付金銭消費貸借金二〇〇〇万円のうち金一七八四万円の同年九月二一日付抵当権設定契約を原因として前同出張所同年一一月九日受付第一四五九号をもつて抵当権更正登記をそれぞれ有し、更に、本件競売物件について、債務者杉山技研株式会社に対する債権につき、(三)昭和五五年一一月二九日付金銭消費貸借契約同日付設定契約を原因として、東京法務局府中出張所同年一二月五日受付第四八八〇四号をもつて、債権額金五〇〇〇万円の抵当権設定登記を、(四)(イ)昭和五六年九月二一日付金銭消費貸借金二〇〇〇万円のうち金一七八四万円につき同日付設定契約を原因として前同出張所同年一〇月八日受付第四四四五六号をもつて、債権額金一七八四万円の抵当権設定登記を、(ロ)右(イ)の抵当権について錯誤により、同年五月一四日金銭消費貸借金二〇〇〇万円のうち、金一七八四万円の同年九月二一日付抵当権設定契約を原因として前同出張所同年一一月一二日受付第四九八〇一号をもつて抵当権更正登記をそれぞれ有している。右(一)の債権と右(三)の債権、(二)の債権と右(四)の債権はそれぞれ同一であるが、右株式会社埼玉銀行の債権は、いずれも抗告人の債権に優先するところから、昭和六一年一月二〇日東京地方裁判所八王子支部は、本件競売事件について、不動産の最低売却価額をもつては手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権を弁済して剰余を生ずる見込がない旨を抗告人に通知をし、抗告人は、同月二七日同裁判所に対し、本件と前記千葉地方裁判所に係属中の事件が同時に進行するならば、株式会社埼玉銀行の上記抵当権があつても、抗告人に配当されるべき分が生じる旨を述べて剰余の見込ある届出をした(それに先立つ昭和六〇年八月一日抗告人は千葉地方裁判所からも同様の通知を受けていたが、同月七日同趣旨の届出を同裁判所になし、右競売事件は、同裁判所に係属中である。)ところ、昭和六一年二月一八日東京地方裁判所八王子支部は、本件競売手続を剰余を生ずる見込みがないとして取り消す旨の決定をした。以上のとおり認められる。

ところで、本件におけるように、差押債権に優先する債権につき別途に競売手続が係属進行し、そのいずれにも優先債権者がその同一執行債権又は担保権を有している場合であつても、民事執行法一八八条により準用される同法六三条の剰余の有無の判断の対象となる優先債権の額は、当該申立事件での優先債権額認定時に現存するそれによるべきであると解するのを相当とする。その優先債権が別の手続において、配当等により減額されるかどうかが不確定である以上、その優先債権額を認めて、手続を進行すべきものであるからである。前段認定の事実によれば、株式会社埼玉銀行の抵当権付債権が抗告人の債権に優先し、かつ、本件最低売却価額をもつてしては手続費用及び右優先債権を弁済して剰余を生ずる見込みのないこと明らかであるから、それを理由として手続を取り消した原決定は相当である。その他原決定に違法の点は見当らない。

よつて、本件抗告は理由がないから棄却することとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官菅本宣太郎 裁判官山下 薫 裁判官秋山賢三)

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